この時、奥から、蓄音機で、マスネエのエレジイが聞えて来る。 一枝u3000u3000どなたか来てらつしやるんですの。 老婦人u3000u3000弘さんだらう。アンリエツトのテニスのお相手でね、なかなかしつかりした青年だよ。 一枝u3000u3000ああ、何時か、いらしつた、あの元気のいい……。 老婦人u3000u3000少し仲がよすぎるやうだけれど、まあ、まあ……(微笑) 一枝u3000u3000(これも、強ひて、笑顔をつくり)さうですわ。――なかなかね。 長い沈黙。 老婦人u3000u3000晃も、無頓着なやうで、やつぱり、残して行つた娘のことは気になると見えて、今日なんかも、先々のことを、色々相談して来てゐるんだがね。――わたしも先は見えてゐるんだし、かうして手許へ置くのも、少し気がかりになり出したよ。 一枝u3000u3000……。 老婦人u3000u3000その時になれば、どうかなるとは思ふんだが……やつぱりね。 一枝u3000u3000……。 老婦人u3000u3000イヴオンヌは、どうしてか日本の気候に慣れないで、たうとうあんなことになつてしまつたけれど、母親の無い女の子は可哀さうだね。「ありがたう」と「今日は」といふ言葉を覚えに、遥々海を渡つて来たやうなものだつた……アンリエツトのお母さんは……。 一枝u3000u3000ほんとですわ。 老婦人u3000u3000今日は、どうしてまた、こんな話ばかりするんだらう。 一枝u3000u3000あたくしの滅入つた顔を御覧になつたからですわ。来るときは、それは晴れ晴れした気持で出かけて来るんですのに……。 室内に慌しい足音が聞えると、急に、窓のカーテンが開く。アンリエツトの姿があらはれる。 亀山社中
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نویسنده: miu