u3000ところで、偶然にも、その味岡の家というのが、彼が家庭教師をしている某家へ通う、そう遠廻りにならぬ道順で、それから後は、駅からの往復を自然、そつちの道を通つてということにした。別に、わざわざ立寄るほどの理由も口実もないまゝに、いく月かは、たゞ、門の前をいくぶんゆつくり歩き、二階の窓をそれとなく見あげ、時たま大きく咳払いをしてみるぐらいですぎたのだが、遂に、彼にとつて忘れ難い日が来た。新宿からの電車の中で、彼女にばつたり会つたのである。その日彼は家へまつすぐ帰る筈なのを、高円寺に用事があるといつて一緒に電車を降り、のこのこと彼女の歩く方角へ歩きだした。 「僕、実は、家庭教師をしてるんです。その家は三丁目なんですが、ちようどお宅の前を通つても行けるんです。ですから、ご迷惑でなかつたら、お宅までお送りします」 「まあ、そうでしたの。今日もそちらへ?」 u3000彼は、ぐいと唾を呑み、 「今日はどうでもいゝんですが、ちよつとのぞいてみます。ほんとは、月水なんです」 「月水……あたくしのお稽古とおんなじ日ですわ」 「なんのお稽古ですか」 「お茶ですの」 「学校はもうすんだんですか」 「えゝ、女学校だけでたくさんだつて、父がいうんですもの」 「あとはお嫁入りの仕度ですか」 「あたくしはそんなつもりじやないの。でも、自分でしたいことつて、なかなかできないわ」 「なにが一番したいんですか」 「…………」 u3000その返事はついに聞かれなかつたけれども、彼はこうして、一週に二度、彼女を高円寺駅で待ちうけ、みちみち話をしながら、彼女をその門口まで送るという楽しみをかち得たのである。ハッピーメール
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نویسنده: miu